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ニュース2024.11.27
【帰朝報告:中川】オーストラリア・メルボルン / シンガポール(2024年10月27日~11月3日)
2024年10月27日~30日まで環太平洋地域のバイオデザイン関係者を中心としたBME IDEA APAC (メルボルン)、10月31日~11月3日までシンガポールに渡航してまいりました。
バイオデザインはスタンフォード大学で始まり、次世代のバイオメディカル イノベーターと起業家を育成しております。BME IDEAは、イノベーション、デザイン、技術移転、アントレプレナーシップ教育に関するバイオメディカル エンジニアリング プログラムの経験とベスト プラクティスの共有を行ってきております。また、各国、各機関のプログラムの発展に向けた課題の共有と課題解決に向けた意見交換の場となってきました。具体的には、イノベーションを促進するために、資源の共有、コミュニティ全体での課題解決の可能性の探索、などに取り組んできております。
今回は、バイオデザイン オーストラリアが台北医学大学と共同で主催し、ビクトリア州メルボルンで BME IDEA APAC 2024 カンファレンスとして開催されました。10月26日、27日のクローズセッションは参加できませんでしたが、10月28日のメルボルン大学で開催の一般にも開放される形で開催されたシンポジウム、29日の関係者のみのクローズセッションに参加してまいりました。日本以外に、シンガポール、インド、オーストラリア、イスラエル、台湾を中心にバイオデザイン関係者が参加し、ベストプラクティスを共有し、集合知によりさまざまな課題解決に向けた一歩を踏み出す、素晴らしい機会となりました。


10月30日~11月2日まで、昨年に引き続いてシンガポールを訪問しました。シンガポールでは、シンガポールバイオデザインの前プログラムディレクターのMary Kanさんが2024年4月からディレクターをつとめるMedtech Catapult、Maryの後任のPhin Lee PengさんがディレクターをつとめるSingapore Biodesign、南陽工科大学医学部を含めて訪問しましたが、視察というよりも、さまざまな素晴らしいみなさんと意見交換をさせていただくことができ、貴重な機会となりました。

Medtech Catapult
Medtech Catapult(https://www.a-star.edu.sg/enterprise/medtech-catapult)は、新たなメドテック製品開発のために、シンガポールの設計開発能力強化、契約製造組織(Contract Manufacturing Organization: CMO)による付加価値の高度化とメドテック製造能力向上を通じて、シンガポールのイノベーション主導型経済と強力なメドテックエコシステムの成長に貢献することを目的として設立されたばかりの組織です。国主導の取り組みで、スタートアップを生み出す環境構築については、一定の成果が出てきたところで明らかになった課題解決のための組織です。ここではライフサイエンス機器/ツールまたはFDAクラスI/II医療機器にターゲットをしぼり、経験豊富な製品エンジニアにアクセス、実用的なプロトタイプ、または少なくともその技術が意図した目的に機能する概念実証(proof of concept: POC)確立、CMOとの契約、製造販売に向けたCMOとの協力体制、標準治療に対して高い争優位性の構築、など多くのスタートアップが難渋するポイントを支援するプログラムと体制になっています。こうした課題を解決しるために、ライフサイエンス ツール/機器および FDA クラス I/II 医療機器に重点を置き、高価値の医療技術製品の設計、開発、検証、妥当性確認を通じて市場投入までの時間を短縮することを目指しています。またそのため、シンガポールのCMO、研究者、臨床医、規制当局、業界関係者と密なネットワークに基づいて取り組んでおります。

Lee Kong Chian School of Medicine 南洋理工大学、シンガポール
研究重視の公立大学であるシンガポール南洋理工大学 (NTU シンガポール) には、工学、ビジネス、科学、人文科学、芸術、社会科学の各学部に 33,500 人の学部生と大学院生が在籍しています。NTU は、マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学、コーネル大学、カーネギーメロン大学、ケンブリッジ大学、ミュンヘン工科大学、北京大学、早稲田大学を含めて多くの大学と国際的な連携を構築されております。NTUは、今年のタイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)の世界大学ランキングで、昨年のランキングから2つ順位を上げ(30位)、トップ30の中で最も新しい大学となっております。また、NTU は、はじめて、Quacquarelli Symonds (QS)、THE、US News & World Report の 3 つの主要な世界ランキング指標全てでトップ 30 にランクされ、とくにTHEランキング(引用)では、NTUが、社会に影響を与える研究集約型大学として、業界との連携、研究の質、グローバルな展望をリードする強みを持っている点が評価されております。
(引用)Published on 09 Oct 2024 NTU enters top 30 of Times Higher Education global rankings. https://www.ntu.edu.sg/news/detail/ntu-enters-top-30-of-times-higher-education-global-rankings
今回はLee Kong Chian School of MedicineのLim 教授(南陽工科大学副理事)を含めた先生方と医学部や先進的な取り組の紹介をいただきました。その他、デジタル技術、データの利活用に関しての意見交換を行ってきました。
https://www.ntu.edu.sg/medicine

詳細は省きますが、いくつか先進的な事例を紹介させていただきます。
シンガポールのNational Database
シンガポールでは、71の政府機関からの5.7K以上のデータセットが利用できる体制となっており、(https://data.gov.sg/)。24時間以内にもっとも利用されたデータセットも表示されています(24-hour Weather Forecast: 1.6M API Calls / 19 downloads PM2.5: 91.5K API Calls / 30 downloads Number of COVID-19 infections by Epi-week: 6.9K API Calls / 58 downloads Resale Flat Prices Based on Registration Date from Jan-2017 Onwards: 4.1K API Calls / 45 downloads Dates of Hawker Centres Closure: 2.9K API Calls / 6 downloads CEA Salesperson Information: 1.7K API Calls / 22 downloads(2024年11月17日現在))。
医療現場における人材不足の解消と効率化に向けたデジタル技術導入
(原文 Philips Future Health Index 2023 Report shares Singapore is using digital health technology to reduce the impact of healthcare workforce shortages)
引用 http://activeage.co/philips-future-health-index-2023-report-shares-singapore-is-using-digital-health-technology-to-reduce-the-impact-of-healthcare-workforce-shortages/ Staff Writer. December 28, 2023
シンガポールではすでに医療従事者の不足に直面しているが、保健省は、高齢化社会の進行に伴い、病院、診療所、高齢者介護センターにおいて、2030年までにさらに24,000人もの医療プロフェッショナルとサポートケアスタッフが必要になると予測しているようです。後述のレポート(フィリップス・フューチャー・ヘルス・インデックス(FHI)2023年レポート「ヘルスケアをあらゆる場所に」)は、データの利用環境を整備しながら、どういった方向にテクノロジー開発を進めるかについて示唆を与えるものとして紹介させていただきます。
シンガポールの医療機関マネジメント層はヘルスケア人材不足の解決策としてデジタルヘルス技術に期待している:シンガポールのヘルスケアリーダーの4人に3人(75%)(世界平均56%)が、ヘルスケア人材不足に対応するためにデジタルヘルス技術を既に利用、あるいは今後利用を検討していると回答しているとしています。スタッフ不足の影響を軽減するためのテクノロジーとしては、どこからでも情報にアクセスできるようにするクラウドベースのテクノロジー (53%)、病院外の環境に接続するテクノロジー ソリューション (40%)、デジタル健康記録や患者フローの自動化などのワークフロー テクノロジー (33%) などが上位にあげられている、としています。パンデミック以降、シンガポールでは、病院の壁を越えてケアの提供をさらに拡大できるソリューションを優先して採用してきており、年齢、肩書にかかわらず約半数(49%)が、バーチャルケアが患者ケアの改善にすでに大きな影響を及ぼしていると認識しているようです。その一方で、現在、約半数(51%)がバーチャルケアに投資しているものの(世界全体54%)、今後3年間に投資を計画しているのは11%に留まっている(世界平均32%)としています。
シンガポールの医療従事者は、転機予測を支援するAI投資に対して前向きである:シンガポールのヘルスケア部門が AI がもたらす機会は認識しており、将来の投資に対する意欲が高まり続けており、現在 AI 技術に投資している割合は世界平均 (25% 対 59%) よりも低いものの、3 年後には同技術に投資する予定は 84% に上り、AI に対する長期的な取り組みが明確(世界平均 83%)である、と述べています。医療リーダーの 45%、若手医療従事者の 39% がこの機能に賛成しています。次に人気の選択肢は、臨床意思決定支援のための AI です (リーダーの 40%、若手専門家の 37%)。これは、AI が医療で重要な位置を占め、病気の診断、個別の治療計画、健康結果の予測を支援する準備ができていることを反映しています。また、こうしたテクノロジーやデジタル変革の導入が、医療分野の優秀な人材の獲得につながっているとも述べています。勤務先の選択にあたり、調査対象となった若い医療プロフェッショナルが挙げた最重要事項は、医療施設が AIの活用の最前線に立っている、という視点でした (39%)。専門家としての自主性が尊重されるか否か (患者のケアプランを指示する柔軟性など)、日常業務にテクノロジーを利用できること (メモを取るためのタブレットや iPad、安全な患者ポータルなど)、優れた治療実績などの他の要素が、それに次いでいたとのことで (24%) で、重要視されていることが示唆されます。調査対象となった若手医療プロフェッショナルも、デジタル技術が仕事の満足度を向上させていると考えているとのことです(例:携帯型超音波アプリなどスマートフォンを使用してどこからでも診断機能にアクセスできる機能 (35%)、自動化されたサービスを介して患者に基本的な医療上の質問に対する回答を提供するチャットボットの使用 (33%)、病院や診療所間での医療データの移植性 (31%) )。
Philips and Singapore General Hospital (SGH) to establish Digital and Computational Pathology Center of Excellence:
ロイヤル フィリップスは、シンガポール総合病院 (SGH) と提携し、ASEAN 最大の病理学研究所の 1 つである SGH 病理学部門内にシンガポール総合病院デジタルおよび計算病理学センター オブ エクセレンスを設立しています。完全にデジタル化された組織病理学ワークフローの社会実装の場で、人工知能 (AI)の活用により生産性を高め、患者ケアの強化、病理学診療の進歩につなげるものです。具体的には、Philips IntelliSite Pathology Solutionを使用して、一次診断、トレーニング、および研究開発のためのデジタル病理学機能を拡張しております。SGH と Philips は、組織病理学研究所のデジタル ワークフローの合理化など、さまざまな分野でも連携してします。
世界の他の地域と同様に、シンガポールでも癌診断でさまざまなニーズの増加が認められているものの、病理医は依然として不足しており、SGHとPhilips が実施した最近の調査でも、SGH の組織病理学研究室を完全にデジタル化することで効率向上の可能性が示唆されており、ワークフロータイムの節約、病理学部門の能力をさらに 7% 向上させながら、従業員数を同じに抑えることができる、としている。
SGH のデジタル病理学の最適化により、同院では AI の研究の進展も期待されている。AI ベースのツールは、シンガポールにおける死亡原因の第一位である癌などの病気の診断において病理医を支援するとともに[1]、病理学の学問的な課題解決にも貢献することが期待される。癌症例の増加、人口の高齢化、個別化医療の急速な進歩により、病理学的診断は著しく複雑化し、病理医の作業負荷は増加の一途をたどっている。AI により、病理医はより高度な専門知識とスキルを必要とする困難なタスクや珍しい症例にさらに集中できることが期待される。
1821 年に設立された SGH は、SingHealthの一員であり、1,700 床のシンガポール最大の急性期三次病院で、敷地内に 40 を超える臨床専門分野を包括的に提供する基幹病院です。毎年、約 100 万人のシンガポール人が、800 人の専門医による高度な医療を受ける医療機関としてだけでなく、学術医療機関でもあり、医師、看護師、医療従事者の育成、患者に最高のケアと成果を提供するための継続的な努力の一環として、革新的なトランスレーショナル リサーチと臨床研究に取り組んでいます。
11月3日
東北大学病院 臨床研究推進センターバイオデザイン部門長
東北大学副理事(国際共創担当)
東北大学病院教授(産学連携室:Experience Design and Alliance Section EDAS)デザインヘッド)
中川敦寛