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ニュース2025.1.22
【帰朝報告:中川】フィンランド・オウル(Oulu City, Finland)(2025年1月12日~1月16日)
2025年1月12日~16日まで東北大学病院の戦略的なパートナー病院であるフィンランド・オウルのオウル大学病院を当院の張替 秀郎 病院長、香取 幸夫副病院長(臨床担当)、浦山 美輪副病院長(看護・サービス担当)を含め訪問させていただき、2019年に締結した覚書(Memorandum of Understanding:MoU)の更新の署名をMiia Turpeinen病院長と取り交わししてまいりました。

今回は仙台市とオウル市が連携協定を締結してから20周年を迎え、今後も継続することから、仙台市より、髙橋新悦、仙台市副市長、橋本啓一、仙台市議会議長らの訪問団とともに、1月13日、14日とご一緒させていただきました。

オウル市(Oulun kaupunki)は、首都ヘルシンキから約 600km 北のボスニア湾沿いに位置する都市であり、商業、物流、文化のハブとなる北部フィンランド最大の都市です。人口は21 万超とフィンランドで5番目の規模で、平均年齢は約 39 歳と若く、現在も増加傾向にあります。
ICT 産業の発展に関する研究を始め、地方自治体、アカデミアと産業が一体となり、起業活動の活発化にかかわることができるのか、という観点を含め、条件不利地域であった北部フィンランドにおいてスタートアップエコシステム(注)の構築も含めた成功事例として取り上げられております。
本学は昨年末に国際卓越研究大学の第1号に認定され、その中では、スタートアップに関して重要評価指標を掲げ、重要項目としてとりくんでおります。今回の訪問を通じ、あらためて、持続発展可能な優れたエコシステムを構築するには、単なる成功事例の学習や模倣ではなく、各地域が持つ文化的・経済的特性を捉えたうえで、地域独自の条件などを理解し、それらに合致する方法を創造的・合理的に模索する必要があることをつよく感じました。
(注)オウル市には 376 社、周辺自治体を含むオウル地域(Seutukunta)では、416 社のスタートアップが存在。ヘルステックやクリーンテック、情報通信分野に強みを持ち、健康管理のプラットフォームを提供するOura Ring®開発したオーラ社(Oura)のようなユニコーン企業も輩出。
オウル市は世界の都市ランキングで 135 位、フィンランド国内では首都ヘルシンキに次ぐ2位(東京横浜エリア 14 位、大阪 128 位、京都 172 位(Startup Blink 社による「Global Startup Ecosystem Index 2023」)
1月13日午前にはStart Up Stationを訪問し、ビジネスオウルのOlli Loytynojaさんによるウェルカムスピーチに続いて、オウル市におけるエコシステム / サイエンスパーク開発の経緯、RadioPark / 半導体のエコシステムを含めたICT産業について、グリーンテックについて、オウル市のスタートアップの取り組みについて、それぞれ担当者からプレゼンテーションをいただきました。


午後はオウル大学を訪問し、アルト・マアニネン学長によるウェルカムスピーチに続いて、6G技術開発、OYSTERプロジェクトでのスタートアップを含めたアントレプレナーシップについてのプレゼンテーションをいただきました。


夕方はVTT / PrintoCentを訪問し、フレキシブルエレクトロニクスについてのプレゼンテーションをいただくとともに、施設を見学させていただいてまいりました。全てのセッションで仙台市からのイノベーション、スタートアップにつながる産業振興政策についてのプレゼンテーションがあり、仙台市や東北大学での取り組みにどのように応用できるか、の視点から活発な意見交換をすることができました。


1月14日午前はOYSテストラボと2014年11月にオープンしたオウル大学病院を訪問しました。Miiia TUrpeinen病院長から施設紹介のプレゼンテーションをいただいた後、開発マネージャー、テストイノベーション部長のティモ・アララケラさんからOYSテストラボのご紹介を、東北大学病院とMoU締結後双方のベストプラクティスを取り入れた取り組みを含めてプレゼンテーションいただきました。


OYS テストラボは新病院を世界で最もスマートホスピタルにするために、エレベーターのサイズから含めてさまざまな場面を模擬テストしており、その後の新病院の案内をOYSサービスデザイナーのTeemu Kemilaさんも交えてしてくださいました。


午後はオウル市役所にてオウル市議会長のJ フッソさんの挨拶に続き、オウル市長のアリ・アラトサヴァさんからオウル市の概要を、その後、オウル、仙台市役所、そして東北大学病院の張替秀郎病院長よりそれぞれの紹介のプレゼンテーションがありました。その後、オウル-仙台協定およびOYS-TUH MoUの調印式が執り行われました。


1月15日はOYSTERでスタートアップのプレゼンテーションを伺うとともに、東北大学病院の取り組みも紹介し、その後、オウル大学病院と今回のMoU更新による次の5年間で何に取り組むかについてよい意見交換ができました。


3日間、内容の濃い日程でしたが、双方にとって今後に向けて発展性の礎となるよい訪問になりました。健康・生命科学生態系調整オウルヘルス、ビジネスオウル、ネットワークディレクターのミンナ・コムさん、内田貴子さんをはじめとしたビジネスオウルはもちろん、オウル大学病院、オウル市役所、仙台市役所をはじめ、関係者のみなさまには重ねてお礼申し上げます。
(参考)オウル市での起業活動の背景
オウル市における起業活動の活発化は、同地域における 無線通信技術を中心としたICT クラスターの発展を軸とし、連綿として継続されてきた強みのある産業分野におけるエコシステムの形成という内在的要因と、ノキアショックという外在的要因の重なりに基づくものであると理解することができます。
ICT クラスター形成
1965 年のオウル大学における電気技師科の設置、その後エレクトロニクス分野の研究開発の発展に伴って関連企業がオウルに立地するようになるところにさかのぼります。さらに国立応用技術開発研究機関の誘致成功、ノキアによる無線通信工場の新設と無線通信部門本拠地のオウルへの移転(1973年)、VTT(Teknologian tutkimuskeskus VTT Oyフィンランドの経済生活と産業発展を支援する国の応用技術センターであり、フィンランドの企業等の研究開発に貢献するほか自主的に中期的な研究課題に取り組んでいる)エレクトロニクス研究所の誘致(1974年)、オウル市が主導したサイエンスパークの設立(1982年)等を経て、関連企業や地域の主要関係者の集積が一層進み、優れた ICT クラスターを形成するまでに至った。その後の企業活動の活発化に関しては、主要企業の事業拡大による事業機会の創出や産学の共同研究による人材の技能形成促進、地域ベンチャーキャピタルであるテクノベンチャー社(TeknoVenture Oy)、スタートアップ企業に対して幅広い支援サービスを提供するインキュベーターであるオウルテック社(Oulutech Oy)設立(1994年)、フィンランド政府内務省によるCOE プログラム(Centre of Expertise Programme)の採択、など様々な関係者による起業環境改善に向けた動きなどの連綿とした取り組みがあったことは欠かせない。
2000 年代後半
オウル市や大学等の地域の主要関係者らは、主要企業であるノキア社を始めとする大企業を中心とした産業構造とエレクトロニクス分野への過度な偏重に対するリスクヘッジとして、新産業の創出に向けて潜在的な成長分野の特定と当該分野における研究開発を促進するための連携協定が締結された。これに基づき、強力な産学官連携の下で対象分野におけるイノベーションの促進と研究成果からの事業創出が進められた。同時期にノキアの経営危機によってオウルに大量の失業者が発生、これが以降の起業活動活発化の契機となった。
ノキア経営危機(いわゆるノキアショック)
失業者への対応として、再雇用支援に加えて新たな事業活動の創出促進がすすめられ、ノキアやオウル市、大学によって展開された起業支援施策を中心に、既存企業から放出された労働力を起業活動に向かわせることができた。産学官の連携協定や様々なアクターによって展開された起業支援施策などが功を奏し、多数のスタートアップ企業が創出された。
スタートアップエコシステム形成
近年では、連携協定に基づいて対象分野の発展に向けたプログラムが展開されているほか、分野横断的なスタートアップ支援チームが設置され、スタートアップ・エコシステムの更なる強化が図られている。一方で、失業率の安定化に伴って起業活動が停滞している側面もあり、現在オウル市は特に起業関心層の拡大に向けた取組に注力している。
オウル大学病院とのMoU締結の背景
仙台市-オウル市の「産業振興に関する共同インキュベーション協定」(仙台-オウル協定、2005年締結)のもと、2020年10月に締結されました。両市は広範囲をカバーする基幹医療機関であり、首都に若者の流出を含めた人口減少といった危機感を共有する点、医療機関として地域の医療から最先端医療を担いながらも、OYSテストラボ、東北大学病院ベッドサイドソリューションプログラムアカデミック・サイエンス・ユニット(ASU)やオープン・ベッド・ラボ(OBL)のように産業を受け入れ、課題解決を行う役割について先進的な取り組みをしている点、など多くの共通点を有することから双方のベストプラクティスを共有しながら社会的なインパクトをもたらすことが目的でした。その後、両病院はビジネスオウル(オウル市経済局/オウル市産業雇用支援公社)のサポートを受けながら、着実に交流を深めてきました。2023年11月にはオウル大学病院からMiia Turpeinen病院長ら5名が当院を訪問し、今後の連携に向けた意見交換を行いました。
(参考)(一財)自治体国際化協会ロンドン事務所.フィンランド・オウルにおける企業活動活発化の背景と地方自治体の取り組み.CLAIR REPORT No. 553(March 26. 2024)
※本掲載記事については下記東北大学病院ホームページにも掲載されています。
https://www.hosp.tohoku.ac.jp/release/news/43375.html
1月16日
東北大学病院 臨床研究推進センターバイオデザイン部門長
東北大学副理事(国際共創担当)
東北大学病院教授(産学連携室:Experience Design and Alliance Section EDAS)デザインヘッド)
中川敦寛