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ニュース2025.2.28
【帰朝報告:中川】コートジボワール・アビジャン(Abidjan, Cote d’ Ivoire)(2025年1月25日~1月29日)
2025年1月25日~29日まで研究開発法人日本医療開発機構(AMED)事業(開発途上国・新興国等における医療技術等実用化研究事業)の一環で、コートジボワール・アビジャンを訪問させていただきました。開発途上国では、日本とは異なる公衆衛生上の課題を抱えており、医療機器に対するニーズは日本と異なる可能性があります。相手国のニーズや価格水準に基づいた製品開発を行うために、実際に開発途上国の臨床現場で、デザインアプローチを用いたニーズの発見やコンセプト作成と、上市に必要とされる研究開発を支援する事業です。もともとは、東南アジアでの事業を対象としておりましたが、ここ数年は、インド、さらにはアフリカ事業に積極的に取り組み始めております。
近年急増する人口や堅調な経済成長などを背景として世界がアフリカに注目しております。その一方、電気・水道等のインフラが整い難く医療も十分に行き届かない地域が多く、さらに多くの課題を解決する必要がでてくることは想像に難くありません。今回、事業検討中の企業、本事業支援機関、そして当該領域の国際的医療専門家とご一緒させていただきましたが、今後の大きな伸びしろを感じさせる一方、俯瞰的な理解から各論の情報収集のどのレベルにおいても解決すべき点があることも大きな学びとなりました。
しかしながら、先進国も今後高齢社会となり、インフラの維持問題だけでなく、社会構造の大幅な変化に伴うさまざまな課題が生まれてくるため、こうした地域で生まれたイノベーションは日本を含めた先進国の社会課題を解決することにつながり得る点においても、意義があることのように思います。
2023年12月には同事業でケニア・ナイロビを訪問しておりますが、今回はフランス語圏で、農業が中心で、アフリカの中では経済的に安定をしている国ということで。医療現場はもちろんのこと、政府・国際機関を訪問させていただき、知見を深めてまいりました。
コートジボワール
国土は322,436平方キロメートル(日本の約0.9倍)、人口は2507万人。1970年代にカカオ・コーヒー等の換金作物の輸出を通じて「象牙の奇跡」と呼ばれる経済成長を達成したが、1993年の初代大統領の死去後、1990年代後半から2000年代にかけては権力闘争が顕在化し、政治的危機が相次いだ結果、国家が事実上南北に分断される事態となっております。その後、2010年の大統領選挙後の内戦を経て誕生したワタラ政権のもと、国際社会の協力を得て平和の定着とマクロ経済の安定を図ってきております。2012年以降はGDP成長率約9%/年を達成し続け、好調なマクロ経済を背景に2015年10月の大統領選挙ではワタラ大統領が再選しております。国民和解や社会的統合、国内格差是正などの課題を抱えつつも、新興国入りを目指し、国家開発計画)に基づき開発が進められてきました。その一方、国民一人あたりGDP1,474ドル(世銀, 2015)と域内では高水準でありながら、貧困率が46.3%(国家統計局,2015)であるなど基礎的社会指標は低い水準となっています(2019年 JICA)。
アビジャン市内
アビジャン空港近郊 舗装されてない道路も多い


国家開発計画(PND)
コートジボワール政府は、国家開発計画(Plan National du Developpement: PND)において国が抱える課題に対して具体的な開発計画を策定しております。PND2016-2020においては、「人材育成及び社会福祉の向上」を重点戦略の一つとして、質の高い保健医療サービスの利用頻度の増加による国民の健康状態の改善や、全国民の医療保険加入を目指す国民皆保険(CMU)の普及による国民、特に脆弱層への社会保障の拡大と地域間の医療格差の是正に取り組んだ結果として、病院およびヘルスセンターの建設・改修並びに医療機器の更新を実施し、2016年から2019年の間に一次医療施設965施設を新設しております。これによりプライマリ・ケアへのアクセスが改善され、人口に対する一次医療施設の割合が、2017年の人口1万人あたり0.9施設から、2019年には人口1万人あたり1.29施設に増加し、人口の98%が保健施設から5km圏内に居住(2015年は65%)する状態まで改善したところです。PND2021-2025においては、「社会的包摂の強化・国民的連帯の強化・社会的行動の強化」を第四の柱として掲げ、保健医療サービス体制における社会的包摂と地域間格差の是正に重点を置いているようです。
国家保健開発計画(Plan National de Développement Sanitaire: PNDS)
コートジボワールでは、国の公衆衛生政策を実施するための保健制度の戦略的優先事項を定めた五カ年計画を実施してきました。PNDS2016-2020の実施期間中、ガバナンスの向上とリーダーシップの強化、保健財政の強化、質の高い保健医療サービスの供給と利用の促進、母子・児童・青少年の健康を含む疾病対策、疾病予防と健康増進など、多くの分野で成果を挙げております。しかし、目標3の2030年までに「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」ターゲットを達成するには、まだ長い道のりがあるようです。PNDS2021-2025は、大規模な健康危機の発生を予測し、適切な対応を提供できる効率的で強靭な医療システムを構築するために必要な取り組みを明確に示しているところです。全ての国民がアクセス可能な強靭な保健医療システムにより、コートジボワールが2030年までに持続可能な開発目標を達成するための、政府と開発パートナーとの新たな協力関係の基礎を築くための取り組みを行っているようです。
医療環境
妊産婦死亡率(対出生十万、WHO,2016)が645(セネガル315、サブサハラアフリカ平均542)、新生児死亡率(対出生千)が37.9(セネガル20.8、サブサハラアフリカ平均28.0)と周辺国に比して大きく改善しなければならない状況とされています(JICA 2019年)。また、5歳未満児死亡率81人/1000出生あたりで多くの課題を抱えています(世界子供白書2019)。
医療機関は西アフリカの周辺諸国との比較では充実していますが、過去の政情不安時に多くの専門医が国外に転出したため医療水準は高くはありません。特に救急医療は貧弱で、脳卒中や急性心筋梗塞の治療では日本のような超急性期治療のできる病院はありません。医師の数は約4,000人で日本と比べて人口比で12分の1です。アビジャンでは、一般的な検査は実施可能です。癌検査などは医師による判断が必要であり、その信頼性は未知数のため推奨しません。外科治療については、一般的な開腹手術程度であれば問題ないようです。しかし当国では輸血血液が常に不足していることや、血液由来の感染症の危険性が高いため、外科手術は先進国で受けることを推奨します。アビジャンの医療レベルで対処できない病気や外傷は、パリ等ヘの緊急移送が必要となります。それらの費用を考慮すると、海外旅行傷害保険では治療・救援費用の高いものに加入しておくことが推奨されます(外務省ウェブサイト 世界の医療事情 コートジボワール共和国)。
医療体制




AMED ウェブサイト https://www.amed.go.jp/program/list/12/01/003.html
コートジボワール共和国の医療体制と医療機器市場 2024 年3月28日 日本貿易振興機構(JETRO)アビジャン事務所
外務省ウェブサイト 世界の医療事情 コートジボワール共和国 https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/africa/cote_d.html
1月29日
東北大学病院 臨床研究推進センターバイオデザイン部門長
東北大学副理事(国際共創担当)
東北大学病院教授(産学連携室:Experience Design and Alliance Section EDAS)デザインヘッド)
中川敦寛