事例紹介
CASE04製品開発
医師の働き方改革を支える!
東北大学とNECによる
医療文書支援システムの開発

日本電気株式会社
2024.11.7
医師の働き方改革ソリューションの
共同研究開発プロジェクトを始めたきっかけ
「医師の働き方改革」が2024年4月より開始されました。その2年前に、東北大学の未来型医療創造卓越大学院プログラムを起点として、東北大学病院が取り組むスマートホスピタルプロジェクトや医療現場へ企業を受け入れニーズ探索の機会を提供するプログラム「アカデミック・サイエンス・ユニット(ASU)」に参加し、医師の働き方改革ソリューションの共同研究開発プロジェクトを開始しました。まず、医師の労働時間削減と医療の質の維持を両立するためには何をするべきかという観点でインタビュー、現場の観察、アンケートにより課題を探索しました。インタビューは東北大学病院の医師や看護師、病院経営層といった病院関係者を対象に行いました。インタビュー記録から課題を抽出し84個の重要業績評価指標(Key Performance Indicator:KPI)として表現しました。各KPIを、課題解決時の効果の大きさ、NECの技術的強みを活かせるかの指標で評価し、優先して取り組むべき6個の機能を特定しました。さらに東北大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科の協力を得て現場の観察により6個の機能を医師の労働時間で定量化した結果、医療文書作成と記録を支援する機能の導入効果が高いことがわかり、他の病院へのアンケートでも同様の結果を得ることができました。上述のように医療現場での探索活動を通すことにより研究者が自信を持って設定した課題に対する解決策の研究開発に取り組むことができました。

医師は多くの種類の医療文書を作成しますが、上述の現場観察により、電子カルテの記録内容から治療経過の要約の記載が必要な退院サマリー、他病院への診療情報提供書、保険会社に提出する診断書といった医療文書の作成に時間がかかっていることがわかっていたため、治療経過の要約作成を支援するシステムを最初のターゲットとして開発に取り組みました。ユーザーインターフェースを含めてシステム設計の初期段階から東北大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科の医師の意見を聞きながら、どのようなシステムにすると医師が使いやすいかを設計に反映させました。また、開発途中のプロトタイプに対しても医師の意見を随時取り入れながら進めました。そして、2023年10月~11月には東北大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科の医師10名の協力のもとで、試作したシステムの効果を実証し、治療経過の要約を作成する時間を平均47%削減でき、要約文章の表現や正確性についても高い評価を受けました。上述のように医師の意見を取り入れながらプロトタイプの設計、開発に取り組めたことが高い効果の実証に繋がりました。この実証結果を受けて、NECは医療文書作成支援AIサービスとして「MegaOak AI Medical Assist」の製品化に至りました。今後、対象とする医療文書の拡大や医師による記録の支援にもASUのフレームワークを活用して取り組んでいく計画です。

図:MegaOak AI Medical Assist
学会発表
- 宇野裕, 石井亮, 柴田大作, 辻川剛範, 中川敦寛, 久保雅洋, 香取幸夫, 治療経過サマリ作成支援のための診察記事からの医療情報抽出, 医療情報学連合大会論文集, 2023年11月
- 石井 亮, 宇野 裕, 辻川 剛範, 中川 敦寛, 久保 雅洋, 香取 幸夫, 医工産学連携による「医師の働き方改革」の実証実験 自然言語処理による経過サマリ作成支援を中心に, 日本内視鏡外科学会, 2023年12月
- 宇野裕, 石井亮, 柴田大作, 石川開, 定政邦彦, 渋谷恵, 辻川剛範, 中川 敦寛, 小山田昌史, 久保雅洋, 香取幸夫, 大規模言語モデルを利用した治療経過サマリの作成支援アプリの試作, 人工知能学会全国大会, 2024年5月
- 石川開, 宇野裕, 石井亮, 定政邦彦, 柴田大作, 辻川剛範, 中川 敦寛, 小山田昌史, 久保雅洋, 香取幸夫, 大規模言語モデルを用いて診療録から生成した治療経過サマリの評価, 人工知能学会全国大会, 2024年5月
- 宇野裕, 石井亮, 柴田大作, 石川開, 定政邦彦, 渋谷恵, 辻川剛範, 中川 敦寛, 小山田昌史, 久保雅洋, 香取幸夫, 大規模言語モデルを用いた治療経過サマリ作成支援AIによる時間削減効果の検証, 日本医療情報学会春季学術大会シンポジウム2024, 2024年6月
- 北出祐, 辻川剛範, 郭 翎, 岡部 浩司, 石井亮, 山本仁, 久保雅洋, 中川 敦寛, 香取幸夫, 医療論文から合成した音声による音声認識モデルの医療ドメイン適応, 日本医療情報学会春季学術大会シンポジウム2024, 2024年6月
- 渋谷 恵, 石井 亮, 北出 祐, 宇野 裕, 柴田 大作, 辻川 剛範, 久保 雅洋, 中川 敦寛, 香取 幸夫, テクノロジーが支える次世代乳癌診療 現場起点の課題探索から生まれた医師の業務支援技術 医療文書作成と電子カルテ入力支援技術の開発背景, 日本乳癌学会総会, 2024年7月
- 柴田大作,辻川剛範,宇野裕,石井亮,中川敦寛,久保雅洋,香取幸夫,”診療科の違いが医療文書からの固有表現抽出の精度に与える影響”,日本医療情報学会 第44回医療情報学連合大会, 2024年11月
- 宇野裕, 石井亮, 柴田大作, 石川開, 定政邦彦, 渋谷恵, 辻川剛範, 中川 敦寛, 小山田昌史, 久保雅洋, 香取幸夫, 大規模言語モデルを用いた治療経過サマリ作成支援AIによる時間削減効果の検証, 医療情報学, vol.44, no.6, 2025年2月
- 柴田大作, 辻川剛範, 渋谷恵, 森田智子, 久保雅洋, 中川敦寛, 重田昌吾, 島田宗昭, 診療データベースを用いたカルテスクリーニング, 言語処理学会第31回年次大会, 2025年3月
- 渋谷恵, 石井亮, 重田昌吾, 北出祐, 辻川剛範, 久保雅洋, 香取幸夫, 島田宗昭, 中川敦寛, カスタマージャーニーマップを活用したサービスデザイン:医師の働き方改革に資する事例研究, サービス学会第13回国内大会, 2025年3月
受賞
※2025年3月時点の内容です。